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令和座第8回公演『∞』劇評
『恐るべき劇空間とは何か?-令和座『♾️』に捧ぐ-』

ヤバイ芝居

最初に言っておくのは劇空間の前に恐るべきなのは浅間伸一郎であってチーム紙背×チーム演劇クロスレビューなんてありえないマッチメイクだ。洗練vs非洗練、エスタブリッシュメントvsスカム、マスvsコア……責任は浅間にある。ご笑納ください。

「恐るべき劇空間」とは浅間の令和座に対するキャッチコピーで「唯一無二の劇空間」と言ったこともあったな。普通こんなクリシェみたいな下手するとチープなでもマジだったら驚愕のbig mouthを主宰が静かに(イメージだ)語るのってリスキーてか本気?と訝ってしまうが浅間は本気なのだ。と、思わせる一貫性がまずヤバい。で、観たら確かに「唯一無二」なのだが思ってたんと違う!のである。間の長さが転形劇場meetsスリムクラブだしなんでいつ見てもチェーンを身体に巻いているの?「人生のすべての瞬間に劇的なるものを見いだし」とか言ってなかった?それがこれ?人生のすべての瞬間にチェーンは巻かれるの?人生は鎖だらけ?鎖は引きちぎれ!ってコト⁈「鎖につながれてお前は生きるのかい?」矢沢永吉の歌声が聴こえてきたが令和座の台詞(劇団おらんだの声で再生)にしか聞こえない……全ては冗談だった?……振り返ると浅間は満足とも不満足とも捉えられる真顔で突っ立っている。「誰からも評価されない作品を作りたい」とも言ってたな。じゃあ本気なんだ、令和座……と永遠なる無限ループに突入する。本気か本気じゃないか本当に本当に分からない。正しいのか間違っているのかキレイなのかキタナイのかリアルなのかフィクションなのか演劇なのか演劇じゃないのかマスなのかコアなのか○なのか×なのか、本当にわからない……私はこんな名前なので「最近のヤバい芝居ってなんすか?」と薄ら笑いと共に聞かれることが多いのだが「それは令和座です」静かに答えるのがデフォになっている。令和座のヤバさとは「わからない」これに尽きる。35年くらい小劇場演劇を観ていてもわからない。現代小劇場演劇シーンで真の天才と呼ばれる(主に俺が呼んでいる)宇宙論⭐︎講座・五十部裕明とも令和座のヤバさについてはこの見解で一致している。まあ『生ビールミュージカル』の本番後で泥酔していたからあれだけど。これ以上は令和座を語ることは蛇足に過ぎない。しかし『♾️』について一文字も書いていないのもどうかしてるので、ちょっとだけ続く。

そういう意味で『♾️』とは令和座に相応しいタイトルで「わからない」とは無限大である。無限大に対して我々は想像するしかない、無限大に。だいぶ疲れるから○でも×でもいいやと妥協しかけたら浅間が「わかってほしい、○でも×でもないもの」と詰めてくる、真顔で。だからそれわからないよ。それでも手がかりはあって令和座はチョイスした劇場をどう使うかに重きを置いているのはここまでにいくつか観た舞台で理解している。最初に観た令和座はBAR公演なのだが設定もBARだった。ひねりなさいよ。次の瞬間に猛反省した。極狭のBAR空間に巨漢の俳優がBARの客として現れる!こんな狭い所にこんな大きな人が!文字通り空間は圧迫され我々は圧倒された。物理って凄い。また迷走しだしたので東演パラータに戻る(その後の大暴れも詳細に語りたいが無限大テキストになるので、割愛)。このタッパが高いクラシックな劇場に昨今の小劇場演劇では異例の舞台セットを組んだ(一目で赤字が心配になる)狙いとは。やっぱりわからないや。縦の構図で世界を描くのは蜷川幸雄ぽいなとかドラマ的には「岩松了のdub的解釈」(って旧Twitterに書いた。饒舌な岩松台詞の音数を引いて間がむしろ饒舌に聞こえる静寂のメロウな作劇。城山羊の会の色も濃いけど岩松だと睨んでいる)かなとか相変わらずクリシェスレスレのパンチラインがキレキレ(例「空回りした愛国心ほど虚しいものはないな」)で往年の村上龍を思い出すけど思い出しただけだアナロジーでは令和座は伝えられないのだから暴力を表現するのに武器を出してくるのはあれ何を思い出したんだっけ「人は皆、鎖に縛られているのよ」今、なんか言った⁈「妹が拐われて」え?『大麻を吸おうよ』と繋がっている!ラストの流れ星だけは東演パラータの備品にあの星球があったことからのアイデアに違いないくらいか自信あるのは。ここまで書いても結局は「わからなくなってきました」(©︎宮沢章夫)この硬直しきった現実世界から逃げ出そう原始からやり直そう可能性は無限大みたいなメッセージを受け取った気だけしていて胸を打つが、口当たりが良すぎるな。そんなタマじゃないよ、浅間伸一郎。とはいえ無限大のキャパが誤読させ続ける結果「これ、例えばシス・カンパニーで豪華キャスト組んでシアター・トラムで演っても違和感なくない?」(勿論、今回のキャストは素晴らしいの前提で)という感想を抱いた。このままでも売れそうって、恐るべき令和座。共感至上主義が覆う現代に「この世にたった1人しかいない自分だけが満足できる純度の高い作品を創り上げたい」宣言をする浅間伸一郎が売れる世界線。本気になっている私を笑うな。わからないはヤバい、ヤバいはわからない。と、3人の魔女がイイ顔で笑っている

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